こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
出てきたのはやけに厚い本だった。
いや、本だと思ってページをめくってみたのだけれど、
どこを開いても中は真っ白なページが続くだけで、文字はおろか、何の装飾もされていなかった。
なんだろう。
困惑している俺に気づいたのか、小川さんはふふっと笑って肩をあげた。
「それね、自分で好きなように仕上げてくださいって本なの」
「好きなように?」
「うん。日記でも詩でもメモでもなんでも。持ち歩くにはちょっと厚すぎるけどね」
「はあ」
小川さんが何を言いたいのかよく分からなかった。
「意味わかんないよね」
「え、あ、まあ」
延々と続く白いページをめくりながら色々考えてみたけれど、正直、よく分からない。
「私が初めて藤本くんの部屋に来たとき……。ほら、突然藤本君を訪ねてきたときあったでしょ?」
初めて小川さんがやって来たとき……俺が熱を出して寝込んだときのことだろう。
「その時にね、私、悪いなって思いながらも見ちゃったんだよね」
「見た?」
何をだろう。
「ほら、藤本くん、あの時寝ちゃったでしょ? 私が本に集中しちゃったのも悪いんだけど」
小川さんは少し肩をすくめて申し訳なさそうな顔をする。
「そういえば……そんなこともありましたね。で、見ちゃったって何をですか」
「あのね、他にどんな本を読んでるのかなって、そこのカラーボックスの中の本を引っ張りだしてね、見ちゃったの」
小川さんが指差す先に、古びた黒色のカラーボックスがある。
横になり縦になりしながら雑然と並ぶ本の背表紙を眺めながら、あることを思い出した。
「もしかして……」
「うん。たぶん合ってると思う」
困ったように微笑んだ小川さんの顔を一瞬だけ見てから、俺はすぐにカラーボックスへ目を移した。
一番下の段の、一番左端。
そこに、一冊のノートが入っている。
置き忘れられたようにして、もう何年も開いていない青色のノートだ。