こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 小川さんの黒いコートの肩に着地した雪が、街灯の弱い明かりに反射してキラキラと光る。


 ポケットから出したまだ温かい手のひらでそれを拭うと、

 俺の手と彼女のコートと、どちらに染み入ったのか分からないほどのあっけなさで粉雪は消えて無くなった。


「ありがとう」


 小川さんの足が止まり、俺を見上げて微笑んでいる。


 撒いていたマフラーをはずした俺は、それを小川さんの肩にかけた。


 華奢な首元を覆うように、そっと結び目を作る。


「寒いでしょう」


 彼女は立ち止まったまま、子どものような顔をして俺の言葉を聞いている。


 何かを言いかけて口を開いた小川さんの長いまつげに雪が降り、

 ゆっくりと、光る粒に変わる。


 それでも声は出せずにいる彼女の手を引いて、俺は歩き出した。



 道の上に薄い白い絨毯が出来上がるころ、

 俺の肩に頭を乗せた小川さんは、小さく「ありがとう」と呟いた。




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