こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
何時間過ぎただろう。
「おーい、もう店閉めるぞ」
カウンターの奥のほうからオヤジさんの声がした。
「はーい、すみません」
返事を返して立ち上がる。
「ほら、帰るぞ。圭吾、奈巳」
「何だよ~、もうお開きかよ」
「十分しゃべったろ。行くぞ」
「あーあ、どうせ明日は休みなのによ。そうだ、他のとこに行かね?」
「行かない。言ったろ? 俺は明日普通に仕事なの」
「ちぇ」
靴を履いた俺のあとに、圭吾が座敷からしぶしぶ降りた。
「奈巳、帰るってよ」
「ん~」
座布団の上に寝転がっていた奈巳に、圭吾が声をかける。
「おい、こんなとこで寝るなって」
「あ~、帰るのめんどくさ~い」
奈巳はそのままぐっと伸びをした。
セーターの下の白い腹が見えている。
「お、オイシイ」
「バカ」
かがんで覗き込もうとしている圭吾を制して、俺は奈巳の体をおこしてやった。
「歩きたくないなぁ。まだ雨降ってるかなぁ」
赤い顔をして、少しふらつきながら奈巳が靴をはく。
その間、俺は勘定を済ませた。
先週も俺が払ったような気がするのだが。
あとでコイツらにも請求してやらないと。
コンビニのバイト代なんて、たかが知れている。
「気をつけて帰れよー」
オヤジさんの声に「はぁい」と奈巳が返事をした。
圭吾はさっさと外に出てしまっている。
俺は引き戸を閉めながら、振り向いて頭を下げた。