こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

「圭吾?」


 どうしたんだ、という前に圭吾の手が俺の胸元に伸びてきた。


「お前、奈巳に何した」

「……え?」


 奈巳、その名前を聞いて一瞬自分の身体がこわばるのが分かる。


「何って……」

「とぼけんなよ。何したんだよ」


 圭吾の手にますます力が込められる。

 突然のことに、俺はされるがままになっていた。


 奈巳はもちろん、圭吾ともしばらく会っていなかった。

 いきなりやってきて、この状況は何なのか。


「……どうしたの?」


 部屋の中から小川さんが顔を覗かせた。

 俺が圭吾に胸ぐらをつかまれているのを見ると、驚いて玄関に走りよってきた。


「ちょっと……どうしたの? 何なんですか、あなた」


 小川さんが圭吾の腕に触れる。

 圭吾は面食らったように小川さんの顔を眺め、そしてゆっくりと俺の胸元から手を下ろした。


 小川さんはわけが分からないといった表情をして、俺たちふたりの顔を交互に眺めている。

 しばらく無言の時間が流れたけれど、圭吾が搾り出すように声を出した。


「淳、お前なにやってんだよ」

「え……?」

「なんで女といるんだよ」

「女?」


 圭吾は鋭い目を俺に向けながら、同時に表情を崩さすに同じ顔で小川さんを見おろした。

 小川さんが身を固くするのがわかる。

 俺は彼女を自分の後ろに促してから圭吾と再び向き合った。


「今は彼女とつきあっているんだ」

「つきあってる? どういうことだよ。奈巳とつきあってんだろ?」

「いや……。奈巳とは……先月にはもう別れてる」

「……別れてる?」


 圭吾の眉間に皺がよる。

 俺は、背後で小川さんが息を呑んでいるのを感じながら、

 圭吾がどうしてここでこんなことを言っているのかを必死で考えていた。




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