こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
タクシーは駅前通りを過ぎ、やや開けた道路に出る。
見慣れない道をいくつか通り過ぎたあとに着いたのは病院の入口だった。
「病院?」
隣の小川さんが小さく呟いた。
落とされた入口の弱い明かりを受けて不安げに首をかしげている。
俺もまた、どうしてここに着いたのか分からなかった。
けれどタクシーを降り、何も言わない圭吾のあとに続いてエレベーターに乗り込むと、なんとも言えない不安に襲われた。
“お前、奈巳になにしたんだよ”
先程の圭吾の言葉が頭に響く。
この状態から考えれば、奈巳に何かがあったに違いなかった。
降りた4階で3人とも黙ったまま薄暗い廊下を進んだ。
消灯時間前なので、病室内の明かりはつけられている。
病室から廊下に伸びる明かりを眺めながらゆっくり進んでいくと、
413号室の扉の前で圭吾は足を止めた。
振り向いた圭吾が俺と小川さんの顔を見る。
その顔から視線を一瞬だけ逸らし、号名の下の名前を確認すると、女性4人の名前に混じって奈巳の名前も記されていた。
やはりそうだ。
奈巳は、この中にいる。
急に高鳴った心音に戸惑いながら圭吾の顔に視線を戻すと、
圭吾は無表情のままで眉間にやや皺を寄せてから呟いた。
「奈巳、昨日からここにいるんだ」
「……昨日?」
「ああ」
扉に手をかけた圭吾だったけれど、思い出したようにこっちを見た。
視線は小川さんへと向けられている。
そんな圭吾の様子に、小川さんが口を開いて何かを言いかけたけれど、
その声が出る前に、ゆっくりと息を吐いた圭吾は病室の扉を開いた。