こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
俺はゆっくりと病室へ足を踏み入れた。
中は6人部屋で、手前のベッドひとつと、奥のひとつが空いているようだった。
他は誰かが使っているようが、時間が時間だからだろう、皆カーテンを閉めている。
ふと、圭吾が俺の背中を押した。
振り向くと、圭吾は指で奥のベッドを指している。
中央のベッドのカーテンに遮られて見えなかったけれど、歩みを進めていくとカーテンの開いた奥のベッドの上に奈巳の姿が見えた。
奈巳は身体を起こしてぼんやりと窓の外を見ていた。
向こうの建物の窓の中で、せわしなく動いている人の姿が見える。
信号の明かりが反射して、赤から青に変わった。
やけに明るく感じるグリーンの光が病室の窓を通してこちら側に入り込んできたとき、奈巳ははっとしたように振り向いた。
その目は大きく見開かれていた。
もともと奈巳の目は大きいほうだけれど、ベッドの上の奈巳の目はいつも以上に大きく見えた。
一瞬、自分が大きく息を呑んだのがわかった。
どちらかといえば丸顔でふっくらとしていたはずの奈巳の頬には黒い影がはっきりと映っている。
きっとそのせいで目もやけに大きく見えるんだろう。
病室着ではなくドット柄のパジャマを着ている奈巳の身体は、服を通してでもわかるほどに痩せていた。
そこには、黙っていても明るさが伝わってくる以前の奈巳の面影は、どこにもなかった。
「淳……」
俺を見上げた奈巳が小さく呟く。
その声を聞いた圭吾が奈巳の隣へいき、そっと肩に手を置いた。
「奈巳、ごめん。……連れて来ちまった」
奈巳に対して申し訳なく言う圭吾は下唇をぎゅっと噛んだ。
「奈巳……」
俺を見上げたままの奈巳の顔に声をかけたけれど、それ以上の言葉が出てこない。
何があったのか、なんて聞くこと自体おかしなことだろう。
圭吾の剣幕、奈巳のこの姿。
原因は、俺にあると考えるのが普通だろう。