こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
「……ごめんね。心配かけて」
沈黙のあと、最初に口を開いたのは奈巳だった。
「こんなとこにいるけど、全然平気なんだ」
「……奈巳」
「ご飯食べれなくなっちゃってさ。このあたしがだよ?」
ふふっと奈巳が笑う。
奈巳には似合わない、弱弱しい笑顔だ。
「倒れちゃったみたいで。気づいたらここにいたっていう」
「……倒れたのか?」
「うん。そうみたい。よく覚えてないんだけどね」
奈巳は笑顔のままで言った。
腕を持ち上げて、ぽりぽりと大袈裟に頭をかきながら。
けれど、こけた頬の笑顔は奈巳が元気だとは到底思えないやつれ加減だった。
圭吾はこぶしを握り締めて立ちながら、やや険しい表情で奈巳の笑顔を見つめていた。
「藤本くん……」
俺の陰に重なるようにして立っていた小川さんが小さく声を出した。
今まで小川さんの存在に気づいていなかったのか、
その声に反応した奈巳の視線が俺を通り越して、顔を僅かにのぞかせた小川さんへと注がれている。
奈巳に向かって小さく頭を下げた小川さんは、
「藤本くん、私、外にいるね」
「え?」
「あの……。ナミさん……? お大事に」
もう一度頭を下げてから、静かに病室を出ていった。