こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
「本当に小川さんのせいじゃないんです」
俺の口から出てくるのは、それだけだった。
自分でも必死な顔をしているのが分かるほど、何度も同じ言葉を繰り返した。
小川さんは頷き、コーヒーを一口飲んでからゆっくりと息を吐き出した。
「ふたりの間の問題だものね。他人には詳しいことまではよく分からないわよね。ごめんなさい、いろいろ質問しちゃって」
「いえ……」
「でも……。彼女、本当に倒れただけなのかしら」
「え……?」
「……ううん。なんでもない」
カップをテーブルに置いた小川さんは、
「しばらくは彼女のお見舞いにいってあげて。ね?」
弱く微笑んでいる。
まるで、さっきの奈巳のような顔だ。
「小川さん……」
「まだきっと、忘れることなんてできてないはずだもの、藤本くんのこと」
「……」
「これっきりってことにしちゃったら……あなたも、きっと彼女も辛いでしょ?」
「……はい」
夜勤の入っていた俺は、アパートへ帰る小川さんと一緒に電車に乗った。
ホームに降り、階段を下って、西口の改札前まで彼女を送る。
改札を抜けた小川さんが振り向いて、俺に小さく手を振った。
何故だか急に、このまま彼女が本当にどこかに行ってしまうような感覚に襲われた。
通りに消えていった彼女の後ろ姿を見送った俺は、しばらくの間、改札の前に突っ立ったまま動けなかった。