こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
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小川さんに言われたとおり、俺はその間、30分から一時間程度奈巳を見舞った。
一度だけ花を持っていった。
奈巳は嬉しそうに顔をほころばせ、歩けるようになった身体を起こして花瓶に花を飾った。
俺が病室を訪れるたびに、先に圭吾の姿があった。
圭吾に声をかけようにも、圭吾のほうが俺と視線を合わせようとしなかったので出来なかった。
会話のない俺と圭吾を気遣うように、奈巳は明るく振舞っていた。
かえってそれが良かったのかもしれない。
オヤジさんの店にいるときのように、時折、奈巳の説教が圭吾に飛んだ。
その顔には、痩せてしまっても奈巳らしさが戻っていた。
唇を尖らす圭吾の頭をこつく奈巳の姿を見ながら俺は、また3人で酒が飲みたいと心から思った。
6日が過ぎ、翌日に奈巳の退院が決まった。
前日、帰ろうと病室を出た俺のあとを追ってきた圭吾に声をかけられた。
テーブルと椅子、数冊の雑誌が置いてある廊下の端の休憩スペースにふたりで腰をかける。
直ぐに立ち上がった圭吾は少し離れた位置にある自販機で缶コーヒーを2本買うと、1本を俺に差しだした。
俺がそれを受け取ると、圭吾は向かいの椅子に腰をおろした。
「見舞いになんて来ないと思ってたよ」
窓の外を眺める圭吾の顔に、ビルの明かりが映っている。
「あのまま逃げると思ってた」
小川さんに言われてなかったら、俺はきっと圭吾が言うように逃げていただろう。
「お前の言うとおりだよ」
「……」
「彼女に……小川さんに言われてなかったら、たぶん見舞いにだって来てなかった」
「……」
「奈巳に最悪なことをしたんだ、俺は。お前がどこまで聞いてるか分からないけど」
「俺は……、なんにも聞いてねえよ」
「え?」
「あの日だって……奈巳が入院したって聞いて驚いてここに来たんだ。淳には言ったのかって聞いたらあいつ……淳には言うなって言ったんだよ」
圭吾はまだ窓の外を眺めている。
俺は黙ったまま、圭吾の言葉を聞いていた。