こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
「俺はまだ、てっきり奈巳とお前は付き合ってるもんだとばかり思ってたから。
奈巳がこんなことになるまで、一体お前は何をやっていたんだって頭に血がのぼったよ。
それであの日、たまらなくなってお前の部屋に行ったんだ。
小川さんだっけ? 彼女。部屋に着いて彼女を見たときに、すぐにお前が言っていた人だって分かった。
でもどうしてお前の部屋にいるのかが全くわからなかった。
そしたら奈巳とは先月に別れてるってお前が……。
奈巳は病院にいるのに、なんで淳はのうのうと新しい女と一緒にいるのかって腹が立ったよ。
彼女がついて来た時……本当は来るなって言おうとしたんだ。
だけど……奈巳の様子を……病室にいる奈巳を見せ付けてやりたいって気持ちもあった。だから追い返さなかったんだ。
奈巳が動揺したらどうしようって気持ちはあったけど……無理だった」
途切れ途切れに話す圭吾の言葉は、病院の廊下に静かに響いた。
「俺はそんな気持ちでお前を連れてきたのに……なのに奈巳は……」
言葉を区切った圭吾は、俺へ顔を向けた。
久しぶりに圭吾と視線を合わせたような気がする。
「倒れた、なんて明るく言っただろう? あの時、俺は挟みそうになる自分の言葉を必死でこらえてた」
どこか泣きそうな顔をした圭吾は、それでも俺から目を離さずに続けた。
「あいつ、本当は自殺未遂だったんだ」
ぎゅっと心臓をつかまれた気分だった。
息を止めた俺は、じっと圭吾を見つめ返したまま動けなかった。
「眠れない日が続いていたみたいなんだ。睡眠薬を飲まないと眠れない日が。
その睡眠薬を……一気に飲んだって。どうなるか試しに飲んでみただけだなんてあいつは言ってたけどな」
「自殺……未遂……」
信じられなかった。
あの奈巳がそこまで追い詰められていたなんて。
俺が負わせた傷は、そこまで大きかったのだ。