こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

「奈巳が言わないなら、俺が言うようなことじゃない。だけど……」


 俺は首を振った。

 圭吾が何を言いたいのか、よくわかった。

 俺には、事実を知っておく義務がある。


 もしもこの先も圭吾と奈巳と付き合っていくことを許されるのであれば、俺だけが何も知らずにいるわけにはいかない。

 いや、ここで3人の関係が終わってしまったとしても、だ。


「淳、苦しんだ奈巳の気持ち、分かってくれ」

「……ああ」

「言わなくてもよかったのかもしれないけど……」

「いや、言ってくれてよかった」


 再び圭吾と視線を合わせる。

 そこに笑顔はなかった。

 俺も、圭吾も。


「奈巳にはもう一度きちんと謝る」


 俺がそう言うと、圭吾は僅かな時間をおいてから頷いた。


 奈巳の自殺未遂……。


“彼女、本当に倒れただけなのかしら……”


 小川さんの言葉が頭を過ぎった。

 小川さんは気づいていたのだ。

 彼女にも、自殺未遂の経験がある。

 飯島さんがそう言っていたことを思い出した。

 同じことを経験したものの勘なのだろうか。





 消灯時間になるまで、俺と圭吾はぽつりぽつりと話をした。

 手にした缶コーヒーが空になるころ、静かに明かりが落とされた。



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