こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 退院の日、奈巳が手続きを終えるのをロビーで待っていた俺は、大きな荷物を抱えてやってきた奈巳と並んで椅子に座り、これまでのことを改めて謝った。


 奈巳は頷きながら俺の話を聞き、最後には、あの明るい笑顔で笑ってくれた。

 そんな奈巳に対し、俺は言葉にできないほどの感謝でいっぱいだった。


「小川さんっていったっけ? あの人。淳、本当にあの人のことが好きなんだね」


 両足をぐっと前に伸ばした奈巳は、微笑みながら俺の顔をのぞき込んでいる。


「いいなぁ、小川さん」

「奈巳……」

「あ、そういう意味じゃないよ? 何ていうか、ここまで思ってくれる人がいてさ。いいなぁって」


 ふふっと笑った奈巳は


「本当はまだ辛いけどね。寂しかったし。でも……、圭吾がずっと傍にいてくれたから何だか救われたんだ」


 細くなった指を重ねてうつむいた。


「誰かが傍にいてくれるって……心強いよね。小川さんだって、きっと淳がいたから元気になったんでしょう?」

「……それは分からないけど」

「きっとそうだよ。救われたんだと思う」


 あたしは大丈夫、仲良くやってね、奈巳はそう言って俺の肩を叩いた。

 大きな荷物を抱えて立ち上がった奈巳がふらついて、俺は慌てて荷物を預かった。



 病院の入口を出ると、圭吾が外で待っていた。

 オヤジさんの店に3人で通っていた頃から薄々感じてはいた。

 圭吾は、奈巳に対して友達以上の感情を持っている。

 この数日間、そしてこうして奈巳を待っている姿を見て、俺は改めて圭吾の気持ちを理解した。


 俺が奈巳と付き合うと言ったあの日、圭吾は一体どんな気持ちだったのか。

 そして奈巳を傷つけた俺に対して、どれほどの怒りをおぼえたか。


 病院の外でふたりと向き合っているうちに、涙が溢れてきた。

 申し訳なさでいっぱいで。

 そんな俺の腕をさすり、奈巳は笑顔を向けてくれた。

 馬鹿じゃねぇのと言いながら背中を叩いたのは圭吾だ。


 通り過ぎる人の視線を感じながらも、俺はしばらくの間ふたりに頭を下げたまま泣き続けた。


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