こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
その日、圭吾と共に奈巳を部屋まで送ってから、夜勤に備えて夕方過ぎに自分の部屋へ一旦戻った。
そして出勤前、奈巳の退院の報告を兼ねて、小川さんのアパートへ向かった。
呼び鈴を鳴らし、応答を待つ。
いつもなら直ぐに聞こえてくるはずの足音は聞こえなかった。
もう夜の九時だ。小川さんの仕事は終わっているはずだ。
出かけているのだろうか。
“誰かが傍にいてくれるって、心強いよね”
ふいに奈巳の言葉を思い出した。
同時に妙な胸騒ぎもした。
この一週間、小川さんには会っていなかった。
俺が彼女のもとに通うようになってから、それは初めて空く、長い時間だった。
といってももう、毎日通うことなど必要のない関係に俺たちはなっているはずだ。
雨の日にも、彼女が歩道橋に向かうことはなくなっている。
小川さんが一人でどこかに出かけることくらい、あって当然だ。
開かないドアに背を向けて、俺はバイトへ向かった。
仕事をしている間中、けれど俺はずっと、得体の知れない不安に包まれていた。