こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
外がゆっくりと色づき始めた。
痛む頭を抱えながら、ゴミ箱の片づけをする。
歩道橋はひっそりと立っている。
彼女なしで、他の人を乗せながら。
仕事を終えた俺は、その足で真っ直ぐ小川さんの部屋へむかった。
どんなに苦しくても、どんなに痛くても、
どうしてこう、俺はバカともいえる同じ行動をとってしまうのだろう。
それでも、向かわずにはいられなかった。
途中、小川さんの携帯に電話を入れてみたけれど、やはり彼女は出なかった。
部屋に向かったところで、どうなるのか。
きっと、居ないに違いないのに。
まだ朝もやに煙る彼女のアパートは、古びた外壁をしっとりと湿らせていた。
階段を上がり、扉の前に立つ。
居ないとわかっている部屋のベルを鳴らすことに虚しさを感じながら、そっと指を押し込むと、乾いた音が中で響いた。
しばらくすると、鍵をはずす音がした。
驚いた俺が一歩後ろに下がると、扉はゆっくりと開いた。
白い顔がのぞいていた。
瞳は真っ直ぐに俺を見ていた。
「いらっしゃい。バイト、終わったの?」
いつもと変わらない彼女のアルトが、白い息とともに玄関先に広がった。
俺は、その顔を見ながら口を開いた。
居ないとばかり思っていた彼女が姿を現したことに驚いてしまった俺は、けれど声が出せなかった。
小川さんに促されるまま部屋の中に入ると、中は程よく暖まっていた。
開いたカーテンの窓ガラスが薄っすらと曇っている。
「寒かった?」
小川さんは、やわらかく微笑んでいる。
また、だ。
何もなかったような、この笑顔。
どうしていつもいつも、あなたはそうやって何もなかったような顔をするんだ。