こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
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人の気持ちは移ろいやすい。
そんな台詞をどこかで聞いたことはあるけれど、
自分自身にそんな出来事が降りかかってくるとは思ってもみなかった。
小川さんと会わなくなって、2週間以上が過ぎた。
彼女と別れて……、別れたのだろうか。
それさえも分からない。
彼女と過ごした一ヶ月は幻だったのだろうか。
振り返る、なんてことをしなくとも、鮮明によみがえる。
思い出にも変わらない僅かな時間しか経っていない。
時折苦しいくらいに胸を締め付ける彼女の笑顔が浮かんでは、ぎゅっと目を閉じる、
そんな夜をやり過ごしていた。
2月に入り、寒さはより一層増した。
吹き付ける風に、優しさなどこれっぽちも含まれていない。
顔を、首筋を、痛いくらいに突き刺してくる。
雑誌の陳列棚の前に立ち、灰色の外を眺める。
厚く広がる雲は、太陽の光を完全に消していた。
一度だけ雨が降った。
彼女は現れなかった。
俺と会っているときも、彼女は歩道橋には来なかった。
支えるものがあれば、彼女はそこに現れずに済むのだ。
きっと今頃は、飯島さんと会っているのだろう。
何もかもが面倒だった。
以前の俺に戻ったような気分だった。
実際、俺の生活からは色が消えていた。
鮮やかに浮かぶのは、彼女との日々だけだった。
圭吾からの着信も、奈巳からのメールも無視していた。
田中も俺を心配する。
そんないたわりが、今はうっとうしかった。
ただ毎日をぼんやりと過ごし、
長い一日を、どうにかやり過ごしているだけだった。