こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
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1週間後、図書館から電話がかかってきた。
「2冊、未返却になってる本があります」
それは、小川さんでもなければ斉藤さんのものでもない、女性の高い声だった。
未返却?
そういえば……、言われてやっと思い出した。
一ヶ月以上も借りている、小川さんと出会ってまもなく借りてきた本のことだ。
部屋の片隅に置いてあるハードカバーに目をやりながら、今日返しに行くと伝えて電話をきった。
すぐに後悔した。
図書館に行ったら、小川さんの顔を見ることになる。
正直、今の自分には辛いことだった。
あの雨の日から一週間、
頭を冷やすことでいっぱいいっぱいになっていた。
そしてやっと、
彼女が俺から離れたこと、飯島さんを選んだこと、
それらを受け入れようと思えるようになった。
なのに、今彼女の顔を見たら、落ち着いていられるだろうか。
伝えたいと思ったあの気持ち。
顔を見たその一瞬で溢れ出してしまうかもしれない。
いや、それよりも、
「どうしてなんだ」と責めたることになるかもしれない。
どこかでまだ納得できていない自分がいるのはわかっている。
時々浮かび上がってくる感情が辛いのだ。
あれほどまでに愛しいと感じていた彼女への想いが、
憎しみにも似た感情に変わりつつあることが。