こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
自動ドアを抜けて、ゆっくりとカウンターへ向かう。
小川さんの席は空いていた。
ほっとしながら歩みを進める。
斉藤さんの席には別人が座っていた。
小川さんよりも明らかに年上っぽい女性だ。
電話をかけてきたのはこの人だろうか。
値踏みするような視線で見上げてくる斉藤さんも、ひっそりと座っている小川さんもいないカウンター内は、なんとなくいつもと雰囲気が違う。
奇妙な違和感を感じたけれど、それが今はありがたかった。
返却する本をカウンターに乗せると、
斉藤さんの席に座っていた女性が腰を上げた。
「長く借りたままですみません」
バーコードをスキャンする女性の姿を眺めながら声を出すと、
「本当にね。一ヶ月以上経ってますよ」
棘のある言葉が返ってきた。
電話の声の主はやはりこの人だった。
「2週間って決まりがあるのに……、彼女が見逃してたのかしら」
PCの画面を見ながら独り言のように呟く姿を見ながら俺は、
ひどく悪いことをした気分になっていた。
「次はちゃんと返却日を守ってくださいね。次に借りたい人もいるわけですから」
「すみません」
頭を下げてから、カウンターに背を向けた。
けれど、どうしても引っかかる。