こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
気持ちを落ち着かせようと、俺はバーテンダーが拭くグラスに反射する光を眺めながら静かに呼吸を繰り返した。
飯島さんもまた、静かにグラスを傾けている。
煙草にのばした手を一瞬だけとめて、そのままライターだけをつかんだ彼は、それを眺めるともなく手のひらに包み、話を始めた。
「君の友達、自殺未遂をおこしたんだって?」
「……え?」
「美咲から聞いた」
「……そうですか」
「その子に、自分と同じ思いをさせてしまったことが辛かったんだろう。そして……君にも」
「……どういうことですか?」
「美咲も同じ思いをしているだろう? 好きなやつが死んで、そこから這いだせずに苦しんで自殺未遂までして。
こんなことを言うのも何だが……、君の友達は助かったからまだいい。でももし死んでしまっていたら、君はどうした?」
「……」
「自分のせいでその子が死んでしまったと、後々まで後悔するだろう。……美咲のように」
「だから小川さんは……、俺から離れたっていうんですか」
「そうだ」
病室での奈巳の姿を見た日、小川さんはそこに自分の姿を重ねていたのかもしれない。
『彼女のそばにいてあげて』
そう言っていた時にはすでに、自分は身を引こうと決めていたのだ。
「でも……、奈巳とはあの後、ちゃんと話をしたんです。俺はどうしても小川さんが好きだって。なのに小川さんはいつのまにかあなたのところに行ってしまって。それで……」
……それで?
俺はどうしただろう。
自分から勝手に離れていった彼女を……ただ恨んだだけじゃないか。
飯島さんのもとに行った彼女を……なんて酷い人なんだと心で罵倒して。
彼女の気持ちなんて、何も考えずに。