こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
口をつぐんだ俺に、飯島さんは小さくため息をついてから話しかけた。
「本当は俺も、君に言おうと思っていたんだ。あの日の電話口ですぐに」
「……なにを、ですか」
「君が宣言したんだ。美咲を救うって。なのに美咲の本当の気持ちをどうしてすぐに理解できないのかって」
「……」
「君からの電話を取りながら彼女に振り向いたとき、彼女が小声で言ったんだ。俺と付き合うようになったように話をしてくれって」
「……」
「折をみて俺と美咲はなんでもない、そう教えてやろかとも思ったけどね。君が本当に毎日彼女のところに通っていたのも知っていたし。
だけどまあ……、そうしたくなったというのが本音かな。美咲がこのまま俺のところに来てくれれば前のように何とか付き合っていけるんじゃないかって思ってね」
「……」
「君には悪かったけど」
ライターをカウンターに戻しながら、飯島さんは苦笑した。
「だけど……、体の関係を拒否されたのには驚いたよ」
「え……?」
「前にも言ったけど、美咲には自分の感情なんてなかったんだ。流されるだけでね」
「……」
「でもあの日、美咲は俺を受け入れなかった。……和也が死んでから、初めて自分の意思を示したんだよ」
「……」
「それも悔しくてね」
頭を、胸を、強く叩かれたような気分だった。
俺が自分勝手に小川さんを責めている間、彼女はどんな思いで過ごしていたのだろう。
そもそも奈巳のことだって、最初から小川さんに話していればよかったんだ。
俺が曖昧なまま奈巳とのことを終わらせずに小川さんとの関係をスタートさせてしまった結果がこれなのだ。
自分のことを棚にあげて、どうして彼女のことを恨んだりしたのだろう。
どうしてもっと早く、そのことに気付けなかったのだろう。
俺はなんて……情けないやつなのだろう。
なんて……醜いやつなのだろう。