こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
電車に乗って一駅目、
コンビニとアパートの間にある駅に、俺がよく足を運ぶ図書館がある。
改札を出て緩い坂道を少しのぼり、
数十メートル下ったところにあるその図書館は、
住宅と、それなりに広い公園にはさまれるようにしてひっそりと建っている。
周辺は細い道ばかりなので滅多に車も通らない。
時折、公園で遊ぶまだ幼い子どもたちの声が聞こえてくるだけで、
環境としては至って静かだ。
外のベンチに腰かけて本を読んでいたとしても気にならない。
広すぎるスペースで本を選んだり何かを書いてみたりするのは落ち着かないが、
この図書館はこじんまりとしていて、個人的に気に入っている。
たまたま郵便受けに入っていた広報誌の案内でこの図書館の存在を知った。
大学をやめてから特にすることも無かった俺は、度々ここに通うようになったのだ。
歴史書や蔵書などの類は少ないが、
文庫本や参考書、実用本などは意外に充実している。
期待できないと思っていた新書も、発刊から間を置かずにきちんと入ってくる。
普通に本を読みたい人間にとっては特に不足はない程度の規模だ。
一階に貸し出しカウンターがあって、
一台のPCを挟むようにして向かい合いながら常時ふたりの司書がいる。
一人は後頭部がやや怪しい感じの年配の男性で、
いつも白いシャツに黒のニットベストを着ている。
ネームプレートには「斉藤」と書いてある。
銀縁のメガネがいつも小鼻辺りまで下げられていて、
カウンターにやってくる利用者をそのまま見上げるので、
何となく目つきが悪い、嫌な感じのヤツに見えてしまうのは俺だけだろうか。
けれど、その「斉藤」さんが利用者の相手をすることは殆どない。
台帳みたいなノートを常に左手側に山積みにしながら何かやっている。
貸出し業務はもう一人のほうにまかせっきりだ。
たぶん、「偉い」人なんだろう。