こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
「そんな……」
あの夜、彼女は、
俺を見ていたんだ。
久しぶりに現れた、この場所で。
亡くなった人の影を探すわけでもなくて、
もちろん、飯島さんと喧嘩をしたからではなくて、
俺を、見ていたんだ。
俺に、会いに来ていたんだ。
「嘘だろ……」
どうして、気づいてやれなかったんだろう。
無神経な、彼女の気持ちを。
本当は誰よりも寂しがりで、
誰かに寄りかかることでしか生きてこれなかった彼女の気持ちを。
確かな誰かの愛を必要としていた、彼女の気持ちを。
それを……
俺に見つけてくれていたかもしれない、彼女の気持ちを。
本当は誰よりも繊細で、人のことばかり気にかけて、
自分のことを一番犠牲にしていた人じゃないか。
傷ついて、傷ついて、
それでも誰かに合わせて、その人を傷つけないように。
突き放せばまた、彼のように消えてしまう。
だから彼女は、誰も突き離さない。
受け入れて、流されて。
いや、流されていたのともまた違う。
自分を、殺していたんだろう。
生きながら、殺していたんだろう。
罰していたんだろう。