こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
1ヵ月前、俺の本が出版された。
公募に出した小説が賞をとり、本になったのだ。
「すごいよね。あたし本屋で淳の本見て、なんか泣きそうになったもん」
「俺も。てか、前に並んでる他の奴の本の上に淳の本、並べてきたし」
「おい……」
「びっくりしたよ、あたし」
「俺も。しかし良くやったな、淳」
正直、俺も驚いた。
けれど、どうしても本にしたい理由があった。
賞をとれたということよりも、出版できる、それが嬉しかった。
***
小川さんが消えてからしばらくの間、俺は塞ぎ込んだままだった。
全身に力が入らず、何もする気が起らなかった。
かろうじて体を動かしていても、いつでも心に穴が開いたように感じるものは何もなかった。
それでもコンビニのバイトは続けていた。
生活は普通に続いていく。
生きていかなければならないのだ。
春になり、就活のために田中がコンビニをやめてからは、バイトの時間はより一層億劫になった。
あれほどうるさいと感じていた田中のおしゃべりも、俺にとっては潤滑油のようなものだったらしい。
ひっそりとしたコンビニの中で、一人でレジに寄りかかりながら立っていると、
意識しなくとも目はあの歩道橋へ向いてしまう。
田中のおしゃべり以外、気を紛らわすものが俺には何も残っていなかった。
圭吾や奈巳も4年生になり、会う時間はぐっと減った。
失って初めて、それの有難味に触れることが多いということを、俺はその年、いっぺんに知った。