こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
***
「じゃあ、改めて、もう一回、かんぱーい!」
奈巳の高い声が店に響いた。
3杯目を飲み干そうとしている奈巳の頬はすでに真っ赤だ。
大学入学時と同じくらい、ふっくらとした頬に戻った奈巳の姿を見て、
不謹慎かもしれないが、俺は改めてほっと胸を撫で下ろす思いだった。
「奈巳、そろそろペース落としたほうがよくね?」
「なんで? まだまだダイジョブだし」
「ろれつ回ってねーし」
「まだイケるし」
圭吾の手が奈巳の頭に降り、叱るというよりは優しく撫でている。
それを振り払おうとする奈巳の頬は、酔ってるせいなのか……いや、別の理由もあるだろう。一層赤く染まった。
「仲いいな、お前ら」
思ったままを口にすると、
「いや、別にっ」
「そ、そんなんじゃないしっ」
分かりやすい二人の反応が返ってきた。
「お前ら、付き合ってるだろ」
からかい半分で言ってやると、
「えっ!?」
同時に声を上げている。
本当にわかりやすい奴らだ。
「良かったな」
「いや……」
「その……」
俺に気をつかっているのか、急に肩を落とした二人は、ジョッキを握りしめたままうつむいてしまった。
「いいんだよ、俺は。良かったよ、お前らでちゃんとまとまって。また他のうるさい奴らが仲間入りするかと思うと頭痛いし」
努めて明るく言った。けれど無理じゃない。本心だ。
こいつらが居てくれて良かった。
こいつらだけじゃない。オヤジさんも、田中も、コミヤも。
居てくれて、良かった。
ここに来るまでの道は決して無駄じゃない。
すべてその先に繋げるための大事な通過点だ。
ひとつひとつを思い起こしながらあの物語を紡ぐことによって、それを理解することができた。
不思議なくらい、俺は穏やかだった。