こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 飯島さんと話をしたあの夜の翌日、

 斎藤さんなら彼女の引っ越し先を知っているのではないかと思い、往生際の悪さを承知で図書館へ向かった。


 カウンターの前へやってきた俺を見上げると、斎藤さんは目をそらすようにしてすぐに台帳へ目を落とした。

 その様子からして、やはり彼女の居場所を知っているようだった。


 けれど、何度問い詰めても、何時間ねばっても、とうとう斎藤さんが彼女の居場所を教えてくれることはなかった。


 引っ越し先は誰にも教えないでほしいと言われたらしい。

「教えてやりたいが……」

 彼女の強い想いを裏切りたくないのだと斎藤さんは言った。

 
 結局俺が知ることができたのは、前日に斎藤さんが図書館にいなかった理由だけだった。


 二人が図書館にいなかったあの日、

 斎藤さんは前日に越して行った小川さんの新居に出向いて、荷物の整理を手伝っていたそうだ。

 彼女がこの街を離れたのは、歩道橋で彼女を見失った日の、たった二日後だった。



 もしも俺が、彼女の想いに気付いて、すぐにでもアパートに駆けつけていたならば……あの細い腕をしっかりと掴んでいたならば、状況は変わっていただろうか。


 いや……、

 あの時、小川さんはもう決めていたんだ。

 そこを、離れることを。

 この街を出ることを。

 俺の前から、消えることを。




 その場では、解決できないことがある。

 時が過ぎなければ、癒されない傷がある。


 あの日、俺が彼女を腕に包むことができていたとしても、

 たぶん、それは刹那的なもので、

 結局、同じ痛みを分け合うことはできなかっただろう。



 離れてみて初めて、俺は、いろんなものを理解できた。

 振り返ることで、知ることができた。



 あなたは今、

 何を想い、どうしているのだろう。


 俺と同じ思いでいてくれたなら……



 もう一度、巡り会えると、信じています。




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