こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
最終章
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初春の雨が降りそそいでいる。
冬のそれよりは軽く、舞い降りるようなやわらかな雨だ。
街頭に照らされた木々が、電車の窓から遠くのほうに見えている。
3月末、赤く色づいていた桜のつぼみが少しずつ開き始めた。
あと数日もすればこの街にも、淡いピンク色のはなびらが舞うだろう。
電車を降り、改札を抜ける。
雨雲の隙間からわずかに白い月が見えていて、
弱い明かりに照らされた街は、薄いベールをかけられたようにぼんやりと煙っていた。
前からやってくるすれ違う人の波で、駅前通りは次第に混み始めた。
傘を持たずに来てしまったので早足で歩いていたのだけれど、
人が多くなるにつれて足がとられ、歩調が緩む。
また誰かのライブでもあったのだろう。
皆一様に楽しそうに笑いながら、揚々と駅方面へ帰っていく。
いつもの場所に向かうため、俺は人の波に逆らいながら、十字路を右へ折れた。