こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
時間が止まる。
驚く彼女の顔が、黙ったまま俺を見上げていた。
あふれる傘の群れが、立ち止まった俺たちの脇を迷惑そうに過ぎていく。
つかんだ腕が人波に引きはがされそうで、俺は、手のひらに力を込めた。
どのくらいの時間が経っただろう。
彼女の腕をつかんだままだった俺の手が、
そこに痕を残してしまいそうなほどに力が入り過ぎていることにようやく気付いた頃には、歩道橋の上には俺たちだけになっていた。
慌てて離した腕を、小川さんは軽くさすっている。
「すみません」
謝ると、
「ううん。大丈夫」
彼女が小さく呟いた。
それは久しぶりに聞く、小川さんの心地よいアルトの声だった。