こんな雨の中で、立ち止まったまま君は


 霞のような雨が、俺たちを優しく包みこんでいる。


 見つめあったまま、静かな時間が流れた。



「元気だった?」

「……はい。なんとか。……小川さんは?」

「うん。なんとか」

「そうですか」

「うん」



 途切れ途切れの会話が、歩道橋の上に小さく響く。



「おめでとう」

「え?」

「本、読んだよ」

「あ……」

「びっくりした。すごいね」



 傘の下で、彼女の顔が小さくほころんだ。



「ちゃんと……書いてくれたんだね」

「……はい」

「こういうお話になるとは思わなかったから、驚いたけど」




「……あなたに」

「……うん?」

「あなたに、書いたんです」

「……」

「伝えたくて」

「うん」

「会いたくて」

「……うん」



 穏やかな笑みを浮かべていた彼女の顔が、ゆっくりゆっくりゆがんでいく。

 やがて静かにうつむいた彼女の頬に、一筋の涙が伝った。



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