こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 一通り棚の間を縫って歩き、

 何冊かを手にした後、2冊を借りていくことにした。


 俺にしては珍しく手元には恋愛物が残った。

 たまにはいいだろう。

 ただ単に、恋愛以外の面白そうなものは読みつくしてしまった、という理由だけなのだが。


 男性と、女性作家物をそれぞれ1冊づつ。

 楽しめなくとも、読み比べ、くらいのことは出来るだろう。



 気づくと1時間が過ぎていた。

 冒頭だけでも読んでから帰ろうかとも思ったのだが、

 ソファは来たときに眺めた顔ぶれでまだ埋め尽くされていた。


 辛うじて黒人男性の隣りが空いていたけれど、

 自分と相手との体格の差になんとなく気後れし、座るのを諦めた。


 自分は175センチそこそこで、高くも低くもない程度の身長はあるけれど、

 体重はたぶん、標準以下だ。

 上京時よりも数キロ減った。

 体のほうも生活に合わせるようにして磨り減ってきている。


 そのうち感情までも衰えていくんだろう。

 無理やりにでも本を読んで、それを食い止めているような状況が今の現状だ。

 もっとも、そんなことは特別意識していないけれど。



 
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