こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
「めずらしいっすね。藤本さんが時間ギリギリで来るなんて」
先に到着していた田中が、タイムカードを押し終わった俺に言った。
今夜は田中と一緒だ。
圭吾のようにお喋りなこいつと一緒の夜は、
それだけでも体力の消耗が激しい。
けれどそれなりに退屈は回避できる。
「寝過ごすところだったよ。間に合ってよかった」
ユニフォームの上着を羽織り、レジに出たところで10時になった。
「二日酔い、もうよくなったのか?」
「もう、ばっちりっす」
「それはよかった」
「何だかいつも以上にかったるそうですね、藤本さん、今日」
「何だかだるくて」
「飲みすぎっすか? あ、もしかして二日酔いとか。それとも風邪ですか? 最近流行ってるみたいだし。あ、そうだ、俺の友達も風邪こじらせて3日も寝込んだんっすよ。で、見舞いに行ったらそいつ―――」
返答の隙も与えてくれない田中の声を聞きながら、
俺はいつものように業務用レンジの乗った棚に寄りかかった。
店内は乾燥していて、おでんの入った容器の周りだけ、スチーム機のように白く湯気がのぼっている。
まだ喋り続ける田中の隣りで腕を組みながら、ぼんやりとその湯気を眺めた。