こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
10時少し過ぎに、朝までの分の弁当類を運んできたトラックが到着した。
それらを検品して陳列し終わると、仕事が終わったも同然となる。
とりあえず田中にポリッシャーをかけさせて、その間だけ一人にさせた。
これから10時間、怒涛のお喋りを聞かされたらそれこそ頭が痛くなる。
時々やってくる客の靴には、僅かに雨水が含まれていた。
じっくりと街を濡らしていく霧雨のしわざだ。
せっかくかけたポリッシャーの光を踏みつけられてぶつぶつ文句を言っている田中を笑ってなだめた。
田中は素直に靴跡を消していく。
そのうち口笛が出始めた。
これからしばらくは一人で楽しんでくれるだろう。
窓がゆっくりと湿り出した。
信号の明かりが微かに反射している。
霧雨は始末が悪い。
あっさりしているようで、じわじわと辺りに染みこんでいく。
気づいた時にはすでに全身がしっとりとしていて、雨に占領されてしまう。
人との関係によく似ている。
そっと近づいてくる人は、
そして自分でもそうとは気づかず受け入れてしまった人は、
知らないうちに、皮膚からゆっくりと入り込んでいる。
気づいた頃には体中に溢れてしまっていて、
じっくりと染みこんだそれは、搾り出すにも時間がかかる。
はっきりとした関係が出来上がる頃には、
もう後戻りできない。
窓を濡らす雨は、ゆっくりとその範囲を広げていった。
霧雨は今夜も、朝になるころには隙間なく街を覆うんだろう。