こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
PM11:00
裏手にあるパチンコ店帰りの客たちで、ほんの少し店内は活気づく。
勝った顔、負けた顔、表情は様々だ。
買い方の勢いで、大体の見当はつく。
それらの客を送りだしてしまうと、一気に静かになる店内で、
俺はまた棚に寄りかかりながら田中のお喋りに適当に相槌を打つ。
お喋りに飽きた田中が雑誌コーナーで立ち読みを始めた。
さすがに店長と一緒のときはそれはしないだろうが、
俺とのシフトのときはお構いなしだ。
グラビアを開きながら鼻をかく田中の姿を斜め後ろから眺めた。
健全、とはああいう姿を言うんだろう。
田中とは1歳違いなだけなのに、
「お」と誌上のアイドルを見つめて喜ぶ姿に苦笑いが漏れてしまう。
俺の気力はどこまで落ちていくのだろう。
おでんの湯気が濃くなってきた。
ピッチャーに汲んだ水を容器に静かに流し入れる。
ふわっと舞った湯気はやがて小さくなった。
こんな風に簡単に、俺のもやもやした気持ちも静めることができたならどんなに楽だろう。
降るなと願っても勝手に落ちてくる雨に打たれてさえも、
気持ちは余計に沈むばかりで、漠然とした不安は静まることはない。
鼻をかき、顔を近づけたり遠ざけたりしながら、田中はまだグラビアに夢中だ。
田中の様子を見飽きた俺は、
仕方なく外のゴミ箱を片付けることにした。
自動ドアが開く。
冷たい風と共に、霧雨が顔を覆った。