こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
駅へ向かう途中のベーカリーの前で立ち止まり、
少し悩んだけれど昨日小川さんが持ってきてくれたパンと同じものをひとつ買った。
それをかじりながら、乾いたアスファルトの上を歩く。
帰宅ラッシュにはまだ早い駅のホームは閑散としていて、
これから波のように押し寄せてくる学生やサラリーマン達に備えて力を温存しているような、妙に張り詰めた静けさが漂っていた。
冬の乾いた風が、余計にそう感じさせるのかもしれない。
夕刊が並んだキオスクをぼんやり眺めているうちに電車が滑り込んできた。
数人の客と共に電車に乗り込む。
シートは半分以上が空いていて、長椅子の中央に腰をおろした。
生ぬるいエアコンの風が中刷り広告をひらひらと揺らしている。
通路を挟んで向かい側の若い女がちらちらとこちらを見るので何かと思ったけれど、
どうやら彼女が気にしているのは、
俺が持っていた小川さんの傘のようだった。
雨も降っていないのに、
しかも女物の傘を持った男が乗り込んできたのが不思議なのだろう。
そう気づくと何となく気恥ずかしくなり、
降りてからも傘を体に隠すようにして図書館へ向かった。