こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 11月ともなると、夜はさすがに冷える。

 今日は、押入れから厚手のパーカーを引っ張りだしてきた。

 店の中と外との気温の差に、自然に肩が上がる。


 ファスナーを首元までしっかりと上げた。

 雨はまだ降り出したばかりらしい。

 思ったほど雨足は強くなかった。


 傘を持ってきていなかった俺は、

 とりあえずパーカーのフードをかぶった。


 空を見上げる。

 真っ暗で深い、夜の雨の海が広がっている。

 
 視線を足下に戻そうとしたときに、

 ふと、歩道橋の上に佇む人影が目に入った。


「今夜も、か」


 3日ぶりの姿だった。


 白い傘を肩にのせて、

 手すりに身を寄せて、

 何をするわけでもなく、

 ただじっと、そこに立っている人。


 暗くてその表情までは分からない。

 空を仰いでいるのか、下を見おろしているのかさえも。


 分かるのは、

 痩せた、細い線の、

 華奢な女の人、ということだけだ。


 こうして下から見上げると、

 静止した一枚の絵のようにも見えてくる。


 なぜかいつもそこだけ、

 彼女の回りの空気だけ、

 止まって見える。




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