こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 何だかキツネに抓まれたような感じてぼうっと車を見送っていると、

 間を置かずして小川さんが中から出てきた。


 鍵を掛け、セキュリティチェックを終えた小川さんは


「すみません、お待たせして」


 彼女にしては珍しく早口でそう言った。


「いえ」

「あの…どうかされました?」

「え?」

「ぼうっと斉藤さんの車を見てたみたいだから」

「ああ」


 不思議そうな顔をした彼女に今のことを話すと、

 小川さんはふふ、と笑って


「斉藤さん、ああ見えて……あ、どう見えてました?」

「え? ああ、何だか怖そうな人だなって」


 正直に言うと


「むすっとしてますからね、普段は。でもいい人なんですよ」


 白い息を吐きながら微笑んだ。


「人って、見かけによりませんね」


 自然に出てきた俺の言葉に、小川さんは「そうですね」と頷いて月を見上げた。


「どこに行きましょうか?」


 ふいにかけられた言葉に戸惑っていると


「ご馳走します。お詫びに」

「え?」


 ああ、それで待っていてくれと言ったのか。

 かえって迷惑をかけてしまったと思っていると


「たぶん男の人の一人暮らしだから寝ているときも栄養になりそうなものなんて食べてないでしょう?」

「あ」


 図星だと思いながら頭をかいていると


「栄養になりそうなもの、何か食べていきましょう」


 何がいいですか? 言いながら小川さんは歩き出した。

 俺は不思議な気持ちでその後に続いた。


 もやのかかった月は、薄く街を照らしている。




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