こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

「それじゃ、ここで」

「はい。ごちそうさまでした」

「風邪、早く完璧に治してくださいね。お仕事もあるでしょうし」

「はい」

「じゃあ、また」


 また…なんてことあるんだろうか、と思いながら改札へ向かう小川さんの背中を見ていた。


「あの」


 かけた声に


「はい?」


 と振り向いた彼女の口元が動く。


 何を言おうとしたのか分からなくなったまま俺は


「気をつけて。その…風邪ひかないように」


 風邪をこじらせた張本人がこんなことを言うのも変だろうと思ったけれど、


 でも、


 今日は、雨の日なのだ。




「はい」


 微笑んだ彼女の姿が人ごみに紛れた。




 ―――寄るところがあるから




 彼女の言葉を頭の中で反芻しながら、

 着いていって確かめたい気持ちを抑えて俺もまた改札をくぐった。


 自分の駅へ向かう電車の中は、少しだけ混んでいた。

 つり革につかまりながら見る窓の外を、

 雨に濡れた家々が通り過ぎる。






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