こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
今日も青空だ。
小川さんと食事をした日からもうすぐ10日が過ぎようとしていた。
あれから彼女とは一度も顔を合わせていない。
図書館に出向いてお礼を言おうかとも思ったけれど、
また余計な気を使わせてしまう可能性も否定できないと考えてるうちに時間は過ぎていった。
あの日、小川さんは歩道橋の上に立ったのだろうか。
部屋に戻ってからも、次の日も、そればかりが気になっていた。
小川さんと一緒に並んで歩きながら見た雨を最後に、ここ数日間は晴れの日が続いている。
曇ったとしても雨にまではならなかった。
小川さんも、歩道橋には姿を現していない。
やはり彼女があそこに立つのは、雨の日なのだ。
「藤本さん? 止まってますよ?」
「え? ああ」
今夜は田中と夜勤だ。
雑誌を抱えたまま窓の外の歩道橋を眺めていた俺のそばに来た田中は、
いつものように漫画本を手にしてしゃがみこんだ。
「真面目にやれ」
「これ、あと3ページ読んだらポリッシャーかけますから」
田中の後頭部をこついて、俺はまた外に視線を戻した。
歩道橋は乾いたまま、夜の街に佇んでいる。
まるでそれが普通だというように。
彼女がいない歩道橋は一枚の絵でもなんでもなく、
街の一部としてただそこに存在しているだけに見える。
そこに彼女の姿を探してしまう俺は一体なんなのだろうと、
雑誌を棚に戻しながら深いため息が漏れた。