こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
今夜も彼女は、雨の中で立ち止まっている。
「寒くねーのか、あんな所で」
夜の歩道橋は誰も通っていなかった。
彼女だけを乗せた歩道橋は、
錆びついた体を雨に濡らして夜に滲んでいる。
彼女がそこに立つ理由…
あの歩道橋だけはそれを知っているのだろうか。
「それにしても…」
いつからああしているのだろう。
今夜はどのくらいあそこにいるつもりだろう。
こんな暗闇の、冷たい雨の中で。
「寒…」
肩が震えた。
さっきよりも雨足が強まってきている。
かぶったパーカーのフードがしっとりと重さを増している事に気づいた。
彼女を心配する前に、こっちが風邪をひきそうだ。
左へ進む。
角を東に折れると駅だ。
曲がり際、後ろを振り返ってみたけれど、
彼女に動く様子は全くなかった。
一瞬強く吹いた風に、
傘と同じ色のスカートの裾が揺れていた。
それでも彼女は動かない。
数秒その姿を見ていたけれど、
後ろから追い抜いていった人の早足に急かされるように、
俺もまた彼女に背をむけて、駅への道を急いだ。
駅の明かりだけが煌々と暗がりに浮かび上がっている。
通りはもう、すっかり雨に埋めつくされていた。