こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
図書館に着いて最初に感じた違和感は、
斉藤さんが本の貸し出し作業をしている姿を目にしたからだった。
斉藤さんの顔には、あの日、俺が小川さんと待ち合わせをしていた時に向けられた笑顔と同じぎこちない表情が張り付いている。
若い女性に本を受け渡した斉藤さんは面倒そうにいつもの席に腰かけて、ふうと一息吐いた。
カウンターの前を通り過ぎながら、俺は横目で中を覗きこんでみたけれど、
PCの前には小川さんの姿はなかった。
椅子の背もたれには淡いピンク色のひざ掛けがきちんとかけられている。
本棚の整理でもしているのだろうか。
俺は本棚の間を縫いながら、彼女の姿を探した。
3回ほど同じことを繰り返し、カウンターの前もわざとらしく通り過ぎてみたけれど、
小川さんの姿は、館内のどこにも見当たらなかった。
ここに来れば会える、そう思っていた小川さんの姿が見当たらないことに、
俺の気持ちは急激に萎えていった。
そのうち見つかるとか、そのうち出てくるとか、
そのくらいの気持ちで放っておいた物をいざ探しても出てこないとなると、
それは物でも人でも関係なく、急に不安になるものだ。
カバンの中や引き出しの中に手を突っ込んで、
ごちゃごちゃにかき回したい気持ちに襲われる。
何度もカウンターの前を通り過ぎている俺に気づいたんだろう。
台帳から顔を上げた斉藤さんと目が合った。
ずり下がった眼鏡の奥の目が、じっと俺の様子をうかがっている。
途端に気まずくなった俺は、返却用に持ってきた本をカウンターの上に置いた。
ちらりと本に視線を送った斉藤さんがゆっくりと立ち上がる。
本を手にした斉藤さんがPCの前で作業をする姿を眺めながら、
俺は声をかけるかどうか、迷いながら突っ立っていた。
そんな気持ちになっている自分に、驚きながら。