こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
誰だろうか。
同僚…ではないだろう。
図書館で彼の顔を見た記憶はない。
もしかしたら……
少し身を引きながらも目の前の男性の顔を眺めていると、
「友人です、彼女の」
俺の心を見透かしたように彼はふっと笑った。
「眠ってるの?」
「え?」
「彼女、眠ってるの?」
「ああ、はい。眠ってます」
「そっか」
そう言った彼は、
「上がってもいいかな」
ノブを握ったままだった俺の手元を見て苦笑した。
「あ、すみません」
慌ててノブから手を離したのはいいけれど、この人は本当に彼女の友人なのだろうか。
少し不安に思いながら彼が靴を脱ぐ姿を見ていたのだが、
部屋に入った彼が彼女の傍に近寄って布団をかけ直してやっている姿を目にして、彼女に近い人物なのだろうということを理解した。
自分が出来なかったことを簡単にやってしまっている。
目の前の光景に半ば呆然としながら見入っていた俺に振り向いた彼は、
「彼女、一度眠るとなかなか起きないんだよな」
困った顔で僅かに口角を上げた。
一度眠ると…起きないのかどうかなんて、初めてここに来た俺には当然知らないことだ。
返事に困っていると、
「彼女とはよく会ってるの?」
「え? いや、最近知り合ったばかりで…」
「今日は? お見舞いか何か?」
「はい、そのつもりで」
「来たばかり?」
「いえ…お茶を淹れてもらったんですけど…眠ってしまって」
物腰は柔らかいのだが、はきはきとした物言いに何となく気後れしてしまう。
もう帰ろうかと思っていたんですけど、と小さく言った俺に、
「起こすのも可哀想だし…帰ろうか」
寝ている小川さんの髪を軽く撫でた彼が呟いた。
横顔が優しかった。