姉の身代わりに
1.姉妹
「嫌よ、あの辺境に嫁ぐなんて」
姉のエリンの声が響いた。リーゼルは身体をぴくりと奮わせる。
エリンのその手には一枚の書類が握られていた。その手がわなわなと震え、今にもその用紙をビリビリと破くような勢いだ。
「だがな、エリン。キャスリック辺境伯が、どうしてもオーガストにエリンをと言っていてだな」
オーガストとはキャスリック辺境伯の嫡男、オーガスト・キャスリックのことである。将来、キャスリック辺境伯の爵位を受け継ぐことになっている彼の自慢の息子。
「別に私でなくてもよいのではなくて? マキオン公爵家の娘なら誰でもいいのでしょう? お父様、幸いにも、マキオン家には娘が二人いるのですよ」
どんと音を立てて、エリンはその書類を机の上に戻した。勢いあまって、彼女の真っすぐな亜麻色の髪が、さらっと背中で暴れた。紫紺の瞳は、妹のリーゼルに鋭く向かう。
「あの辺境なら、リーゼルのほうがお似合いではなくて?」
エリンは軽く腕を組み、勝ち誇ったかのように妖艶に微笑んでいた。
そうなれば妹であるリーゼルは身を竦めるしかない。
そもそもエリンとリーゼルは血の繋がりの無い姉妹である。
リーゼルは後妻の連れ子。マキオン家の娘と言いながらも、マキオン家の血を受け継がない娘。ただマキオン公爵とは養子縁組をしたため、マキオン家の娘と名乗ることができるだけ。
だからエリンとリーゼルは似ていない。
姉のエリンの声が響いた。リーゼルは身体をぴくりと奮わせる。
エリンのその手には一枚の書類が握られていた。その手がわなわなと震え、今にもその用紙をビリビリと破くような勢いだ。
「だがな、エリン。キャスリック辺境伯が、どうしてもオーガストにエリンをと言っていてだな」
オーガストとはキャスリック辺境伯の嫡男、オーガスト・キャスリックのことである。将来、キャスリック辺境伯の爵位を受け継ぐことになっている彼の自慢の息子。
「別に私でなくてもよいのではなくて? マキオン公爵家の娘なら誰でもいいのでしょう? お父様、幸いにも、マキオン家には娘が二人いるのですよ」
どんと音を立てて、エリンはその書類を机の上に戻した。勢いあまって、彼女の真っすぐな亜麻色の髪が、さらっと背中で暴れた。紫紺の瞳は、妹のリーゼルに鋭く向かう。
「あの辺境なら、リーゼルのほうがお似合いではなくて?」
エリンは軽く腕を組み、勝ち誇ったかのように妖艶に微笑んでいた。
そうなれば妹であるリーゼルは身を竦めるしかない。
そもそもエリンとリーゼルは血の繋がりの無い姉妹である。
リーゼルは後妻の連れ子。マキオン家の娘と言いながらも、マキオン家の血を受け継がない娘。ただマキオン公爵とは養子縁組をしたため、マキオン家の娘と名乗ることができるだけ。
だからエリンとリーゼルは似ていない。
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