姉の身代わりに
「驚くことか?」
「え?」
 今、彼は大事な言葉をさらっと口にしたような気がする。
「あの、オーガスト様は。私のことが好きなんですか?」
 リーゼルが尋ねると、きりっと引き締まっていたオーガストの顔が、みるみるうちに朱に染められていく。
 それはリーゼルから見てもわかるくらいにくっきりと。
「ああ、好きだ。だから君を婚約者にと望んだ」
 とうとうオーガストが開き直った。
「え。私はお姉様の身代わりだったのではないのですか?」
「なぜ、そうなる?」
「だって、お父様が。その、そのようなことをおっしゃっていて……。どちらでもいいって……」
 そう言われて、あの書類にサインをしたのだ。
「それにお姉様は、辺境には行きたくないからって、オーガスト様との婚約を私に押し付けたのです。ですから、その……オーガスト様にとっては望まれない形だったのではないのですか?」
 リーゼルが何か言うたびに、オーガストの顔は曇っていく。
「それに、オーガスト様はお姉様のことが好きなのですよね?」
 よりいっそう、彼の顔が曇った。
「俺は、エリンをそういった目で見たことはない。俺はむしろ、君のことが昔から好きだった。だからずっとエリンに相談していた。エリンは俺にとっては悪友だからな。男女間の友情が存在するかと問われたら、俺とエリンがそのような関係だろう。だから、エリンには一切恋愛感情は無い。ただ、彼女が望む男と結ばれて幸せになって欲しい、とそうは思っていた。だから、殿下とこうやって結ばれたことを、心から嬉しく思っている」
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