姉の身代わりに
 無口な彼がこれほど饒舌に語るのも珍しい。
「えっ?! え? え?!」
 だが、リーゼルの頭の中は破裂寸前だった。
「驚いたリーゼルも可愛いな。普段はそのような表情を見せないだろう? 見せたことがないよな」
 リーゼルには彼の言っている内容についていけない。
 ただ、一つだけ伝えたいことがある。
「あの、オーガスト様。オーガスト様も誤解されているようですが……私もオーガスト様のことが好きです。その……学院で一緒だったころから……」
 リーゼルがすべてを言い終わるか終わらないかのうちに、彼の太い腕でがっしりと抱き締められた。
「本当か? 空耳ではないのか? 夢ではないのか?」
「夢ではないかと思います。その……オーガスト様に抱き締められて、とても苦しいので」
「す、すまない。嬉しくてつい」
 オーガストが、ぱっと腕を緩めた。
「君が俺の気持ちを誤解している原因は、間違いなくエリンにある」
 そう苦々しくつぶやいた彼は、これまでの出来事をゆっくりと語り始めた。
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