姉の身代わりに
 気づいたらエリンはそう声をかけていた。
 するとリーゼルはくしゃくしゃに顔を歪ませて「うん」と大きく頷いた。
 それがエリンにとっては、心にぽわっと光が灯るように嬉しかった。
 リーゼルの母親もエリンに幾言か声をかけてきた。だからエリンが庭について説明をすると、彼女も感心したように話を聞いてくれた。
 ――エリンさま。また、あそびにきてもいいですか?
 ――ええ、もちろん。
 エリンはそう答えていた。
 だが、リーゼルと母親は、その後、遊びに来るようなことはなかった。
 そしてとうとう、エリンの母親も、エリンと父親を置いてこの家から出て行ってしまった。マキオン公爵家の醜聞ともいえる出来事。
 それから一年後、学院に通う前にとエリンに家庭教師がつけられた。それがリーゼルの母であった。
 あの後、リーゼルの父は亡くなってしまったらしい。元々身体が丈夫ではなかったとか。そして、リーゼルの祖父の爵位はその父の弟、つまりリーゼルから見たら叔父が継ぐことになったらしい。だから、リーゼルと母親は実家に戻った。
 伯爵家のほうでもリーゼルとその母親を離れに住まわせようとしていたらしいのだが、最愛の人を失った場所に留まるのは辛いと、リーゼルの母親が口にしたとも聞いている。
 他人から聞いた話だから、それが事実かどうかはエリンにはわからない。
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