姉の身代わりに
 乱暴にその書類を戻すしたエリンは腕を組み、ギリギリとリーゼルを睨みつける。
「私が正統なマキオン家の娘であるにもかかわらず。私が辺境で、ただの赤の他人のリーゼルが王太子殿下の婚約者? 有り得ないわ。普通、反対よね」
 リーゼルは身を縮こませる。
「リーゼル、あなた私の代わりに辺境に嫁ぎなさいよ。そうすれば、私も王太子妃となれるの。素晴らしいと思わない? ねえ、リーゼル。あなたはどう思うのかしら?」
 蛇に睨まれた蛙状態のリーゼルは「お姉様のおっしゃる通りです」と小さく答える。
「ですってよ、お父様。リーゼルもこう言っていることだし、私と王太子殿下、リーゼルとキャスリック卿。これでよいのではなくて?」
 マキオン公爵は大きく息を吐いた。
 こうなってしまったエリンは、誰にも止められない。だが、エリンの言っていることもわからなくはない。
 国王もキャスリック辺境伯も、息子たちの相手はこのマキオン公爵家の娘であればどちらでもいいと言っているのだ。
 昔から知った仲だからこそ言えるのだが、当の本人たちにとってみればいい迷惑なのだろう。
 ただ、年下の妻のほうがいいだろうという変な親心が働いて、そのような組み合わせを提示されただけにすぎない。誰の好みなのか。
 娘は結婚の道具とは思っていたマキオン公爵ではあるが、できれば望んだ者と結婚させてやりたいという心も少しはあった。
「リーゼルは、キャスリック卿に嫁ぐことになっても問題はないのか?」
「はい……お父様とお姉様のお望みのままに」
 ドレスの裾をぎっと握りしめたリーゼルは、小さく答えた。
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