母親代わりの不遇令嬢は、初恋の騎士団長から求婚される
「苦しいなら、俺が脱がせてやる」
「え、ちょ、ちょっと。脱いだら、一人では着れないのよ」
「大丈夫だ、そこに別なドレスが準備してあるから」
「別なドレスって……」
 彼が示した先にはナイトドレス。つまり、身体を休めるときに身に着けるドレスである。
「エリーサ。このドレス。とてもよく似合っているよ……。これ、俺が選んだんだ。君に着てもらいたくて」
 ブロルは後ろの鈎に手をかけながら耳元で囁いた。
 その囁きが腹の底にまで響き、ぴくっと身体が震えてしまう。落ち着いていたはずの心臓が、ドドドと騒ぎ始めてしまう。
「え? あなたが選んだの?」
「そう。君は、このような状況において、俺から何をされるのかと不安にはならないのか?」
「何をするつもりなの?」
「君は、男が女にドレスを送る意味を知らないのか?」
 ブロルは愉悦に満ちた笑みを浮かべ、エリーサを見つめていた。
 だが、彼は途中で視線を逸らした。それはエリーサの視線があまりにも真っすぐにブロルを射抜いたからだ。
「君には負けた。そんな顔で見つめられたら何もできない……。本当は、君を口説いて君の純潔をもらうつもりだった」
「口説く? 純潔? あなた、何を言ってるの? 女性なら、誰でもいいってこと?」
「まさか。誰でもいい相手に、こんな回りくどいことはしない」
 少し乱れたドレス。
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