母親代わりの不遇令嬢は、初恋の騎士団長から求婚される
「嫌いじゃない……」
「そうか。だったら、俺と結婚をしろ」
「それって、命令なの?」
 エリーサが不安そうに二つの翡翠色の瞳を揺らしている。
「ああ、命令だ。と言ったら、どうするつもりだ?」
「あなたの命令に従う気はない」
「そうか。では、力尽くで君を奪うしかないな」
「ちょ、ま、ま、待って」
 そこでエリーサが膝を立てれば、見事ブロルのみぞおちに命中したようだ。
 けして彼女は狙ったわけではない。そして、彼の大事な象徴ではなくて良かった、と安堵する。
「あ、その、ご、ごめんなさい」
 苦しそうにお腹を押さえ込むブロルの顔を覗き込もうとして、エリーサは身体を起こす。すると、がしっと背中に彼の両腕が回ってきて、抱き締められてしまった。
 エリーサの蹴りなど、このブロルにとっては痛くも痒くもないものだったのだろう。彼女をこうやって抱き締めるための、演技だったのかもしれない。
「俺は、間違いなく君に惹かれている。いつからだなんてはわからない。だが、三人の弟たちの母親代わりとして、彼らに接する姿が輝いているように見えた。女性が輝いて見えることなど初めてのことだったし、そんな君をもっと見ていたくなった。だから、それが惹かれるということなのだろう、と思った」
「だったら。わかっているでしょ? まだあの子たちには母親が必要なのよ」
 エリーサの言葉にブロルは首を横に振る。
「もう、双子たちも学院に通う年だ。もちろん、母親が必要とされる場面もあるかもしれない。だが、彼らにとって必要なのは母親代わりの姉なのか? そうじゃないだろう。彼らにとって、姉は姉であって、母親ではないことだってわかっているはず」
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