母親代わりの不遇令嬢は、初恋の騎士団長から求婚される
「それでも。私は今まであの子たちの母親代わりをしてきたの」
「だからだ。もう、母親を演じるのはやめろ。彼らの姉として、一人の女性として、これから生きていってはどうだ?」
「どうして? あの子たちにはまだ母親が必要なのよ」
「そう思っているのは君だけではないのか? むしろ、そう思い込もうとしている」
 ぎりっとエリーサは唇を噛みしめる。悔しくて、悲しくて、母親を失ってからの十四年間を否定されたような気分だった。
「もう、あの子たちに私は必要ないって。あなたはそう言うのね」
「そうじゃない。これからは、弟のためにではなく、自分の幸せのために生きてはどうか、と言ってるんだ」
 そこでブロルはエリーサをかき抱く。
「俺は、君に幸せになってもらいたい」
「ブロル……」
「そして、オトマルもイントンもエントンも、そう思っている。むしろ、彼らは自分のせいで君が結婚をしないのではないか、と悩んでいる」
 その言葉でエリーサははっとする。エリーサが弟たちを想っているのと同時に、彼らもたった一人の姉のことを想ってくれていたのだ。
 兄弟四人。
 それぞれがそれぞれを想い、想われ――。
 なぜ、気づかなかったのだろう。弟たちの気持ちに――。
 エリーサは、ブロルの背にすっと両手を回した。そのまま彼の胸に顔を埋めて、静かに涙を流す。ブロルは優しくその背を撫でる。
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