何色でもない私をあなた色に染めて
「おつかれー
瑛(あきら)、メイク落としてく?」


「いい、このまま帰る」


「変な男に声掛けられるなよ」


「大丈夫、ママが車で迎えに来るから」


私の専属ヘアメイクの瀬来 遼(せら りょう)さん


「最近ママ見掛けなかったけど、元気?」


私のママと同級生らしい


「うん
私ももぉ18歳だし
仕事も自分で選んでいいってママが言ったの
だから最近一緒に来ないんだ〜」


「もぉ18ね…
まだ18か…若い
こんなちっこかったのにな」


「そんなちっこくないよ」


「たしかに
最初に会った時からデカかったわ」


「小学4年生で160cmあったけど
デカいって…なんか嫌な言い方」


瀬来さんに会ったのは10歳の時


「泉 瑛(いずみ あきら)って名前聞いた時
大学の教授とか
ジャーナリストのオッサンかと思ったら…
ピンクのランドセル背負った
小生意気な小学生モデルだった
タメ口だったのはまだ子供だったし
100歩譲ったけど
今もタメ口だし…」


「オッサン…て、ひどい!」


「オレがオッサンだったって話だけど…」


「瀬来さんのこと
オッサンて思ったことないよ」


「そんなお世辞言えるんだ
大人になったな」


初めて会った時は
大人がみんな怖そうに見えたけど
瀬来さんだけはなんか違った


「あ、やっぱりそのリップの色だけ落とそ
その色、制服には合わない」


「家帰るだけだよ」


「瑛は本当はナチュラルな方が似合う
化粧映えする顔してるよな…」


瀬来さんはそう言いながら
私の唇を拭き取って
メイクボックスから筆を取り出した


仕事中は髪を結んでるけど
仕事終わりの瀬来さんの無造作な髪が
私は好きだ


リップを私の唇にのせる瀬来さんに
見惚れる


メイクをしてる時の
瀬来さんの真剣な顔が好き


いつも息ができなくなる


「ハイ、おつかれ」


「瀬来さん、ありがと」


「ママによろしく」


瀬来さんは顔を歪ませて
手を振った

その笑顔も好き


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