清くて正しい社内恋愛のすすめ
 急に間近に迫った加賀見の顔に、穂乃莉の鼓動はドキドキと駆け足で叩き出す。

「ち、違うよ。加賀見は……王子だよ……」

 穂乃莉はぽそっとつぶやくと、急いで顔を背けた。

「ん?」

 加賀見は聞こえなかったのか、眉を上げると不思議そうな顔をしている。


 ――腹黒王子……。そして私にとってはヒーロー?


 穂乃莉は心の中でつぶやくと、一人でぷっと吹き出した。


 加賀見と一緒にいて、加賀見のことを知れば知るほど、どんどん惹かれていく。

 この気持ちは、もう止められないところまで来ている気がする。

 そしてそれは、恋する気持ちだけでなく、加賀見のことを尊敬して、信頼しているということ……。


「お前、今変なこと考えてただろ」

 加賀見は目を細めながら穂乃莉の肩に腕を回すと、強引に穂乃莉の顎先を自分に向けさせた。

 そんな強引さも、今はとても心地いい。

「ちょ、ちょっと! 何も考えてないってば」

「嘘だ。白状しろ」

「もう、やめてよ」

「嫌だ」

 二人でじゃれ合うように笑いながら、昼下がりの町中を歩く。

 穂乃莉は心の底から幸せをかみしめるように、加賀見の腕の中でくすくすと笑い声を立てた。
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