清くて正しい社内恋愛のすすめ
「いいよ」

 加賀見が優しい顔で答え、穂乃莉は入り口に足を向けた。

 そして自動ドアに映った自分の姿を見てはっとする。

 そうだ。さっきからずっと、加賀見の腕にしがみついたままだったのだ。


「ご、ごめんっ」

 穂乃莉は慌ててパッと腕を離すと、取り繕うように髪を耳にかけながら下を向いた。

「ほら」

 すると加賀見の低い声と共に、目の前に手が差し出される。

「え……」

「一応出張中だけど、これぐらいはいいだろ?」

 加賀見がにんまりとほほ笑み、穂乃莉はパッと顔を上げると、加賀見の手のひらに自分の手を重ねた。


 繋いだ手から加賀見の温もりがじんわりと伝わってくる。

 穂乃莉は自分の心臓のドキドキが、手のひらを伝って加賀見にバレてしまうんじゃないかと思いながら、またぎゅっと繋ぐ手に力を込めた。


 加賀見と手を繋いだまま、しばらく店内をゆっくりと歩いて回る。

 店はさほど広くはないが、適度に観光客で賑わっていた。

 やはり“びわにゃん”の営業効果は絶大のようで、枇杷ジュースや“びわにゃん”グッズを手にしている人をちらほら見かける。
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